新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、エボラウイルス病(出血熱)等、各メディアで報道される感染症のニュースや、麻疹(はしか)や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)など、ワクチンにより予防可能であるにもかかわらず全国的に流行する感染症のニュースを目にする機会が多いと思います。ウイルス性疾患の研究は年々進んでいますが、まだまだ未解明なことが非常に多くあり、新型ウイルスの出現に備えるためにもウイルスの基礎研究が非常に重要になります。
さらに、感染症に対抗する手段であるワクチンによる予防や薬剤による治療は、実は限られたウイルス性疾患に対してのみで、多くの感染症で治療法や予防法はありません。
私たちは、ウイルスが細胞に感染し自らを再生産するプロセスを様々なアプローチによって解明し、ウイルス性疾患の予防・治療に役立てることを目指しています。現在、私たちの研究室では、ヒトに病気を起こすウイルスを対象として、以下の2つを主要研究項目としています。
ウイルス感染による病原性発現のメカニズムと、ヒトの免疫系がウイルス感染に対抗するメカニズム、この両方を解明することを目指して、分子生物学・生化学・物理化学的手法やウイルス学的手法、構造生物学的手法を組み合わせて研究を行っています。機能解析では主にリバースジェネティクス法や変異導入を、構造解析では主にX線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡構造解析を用いて小児関連のウイルス感染症を中心に研究を行っています(図1, 2)。
図1. 変異導入を用いた機能解析
図2-1. 構造解析技術を活用したウイルス研究
(中和メカニズムの解明)
図2-2. 構造解析技術を活用したウイルス研究
(病原性および阻害剤の作用機序の解明)
ウイルスは細胞への吸着・侵入、蛋白質の産生、ゲノムの複製、これらを集めて新しいウイルス粒子の作成といった全ての過程で何らかの宿主因子を利用しています。こうしたプロセスにかかわる分子を様々な方法(古典的な方法からオミクス解析まで)で明らかにするための研究を行っています。パラミクソウイルス(麻疹、ムンプス)・コロナウイルスを中心に病原性の理解や、宿主因子との結合部位を標的とした分子標的薬の開発につなげることを目標にしています。
図3. ウイルス増殖に関わる宿主因子の探索
研究項目1の成果を基に、蛋白質の構造に基づいてワクチン開発の基礎研究や治療用抗体・化合物・ペプチドを開発する研究も行っています。特に新規の抗体作製法の開発に力を入れて研究を進めています。抗体は標的分子に対する特異性の高さから医薬品としての注目度も非常に高いです。対象はRNAウイルス感染症(特に麻疹、ムンプス、コロナ、BSL4関連ウイルスなど)。
図4. ウイルス患者に対する抗体・阻害剤開発
ウイルスは自身での増殖は不可能であり、感染細胞に100%依存して増殖する特徴を持ちます。つまり、ウイルス学は分子生物学・細胞生物学を基盤とする学問です。在学期間中に下記の分野について学ぶことができます。